“主役は光”の情景画展

≪フィレンツェ・京都 姉妹都市締結50周年記念≫として両市にて開催した展覧会を、再現する趣旨の巡回展が間もなくスタート致します。
今回は、久しぶりに北海道と九州でも開催できますこと、とても嬉しく思っております。

この度の記念展覧会を通じて、私が目指しておりましたテーマは・・・
日本人が元来持っている繊細な美意識やその優しさを、”日本的な”モチーフを多く宿す京都の風景の中に、”光の情景”として描くことで、両市の会場を訪れる海外の方々にも、日本や日本人へのより大きな興味・共感を抱いて頂くことでした。

また、この後の国内での巡回展では・・・
日常の忙しない日々の中では置き去りにされがちな、伝統的なものや自然・四季に対する日本人独自の愛着・・・”日本人で良かった”というような感覚に、想いを広げて楽しんで頂けましたら嬉しく思います。

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伝統的な日本画の特徴の一つに、”光と影”をほとんど描くことなく、その美しい描線や情緒あふれる色彩や構図によって独特の美を創出する、ということが挙げられます(特に、浮世絵などを思い浮かべて頂けましたら分かり易いかと思います)。
そして、海外での高い評価も含め、皆が(もちろん私も)その独自性に敬意を抱き魅了されます。

ところが私の絵は、画家を目指した当初から「心安らぐ光」を描き出すことを、一貫したテーマとしてきました。
とても日本的な”京都”という題材をもってして、敢えて”光(と影)”を強く意識して描くことに挑んだのが、先日発表されました「水の奥の世界」であり「暖簾をくぐって」等です。

左:作品「暖簾をくぐって」 油彩 91.0×35.0㎝
右:フィレンツェのナルデッラ市長へ、昼食会の席で記念作品として「舞妓夕景」(ジクレ)を寄贈

この作品について少し説明させて頂きますと・・・

お茶屋さんの玄関先、まだ暖簾はその内側にしまわれている状態です(上方にお札など貼ってあることから玄関内であることが判ります)。
つまり、まだ”お座敷”前の夕刻の時間帯であるわけです。
舞妓さんの背後の戸外は、まだ少し青さも残す自然光に照らされています。
外と中の二種類の”光と影”の狭間に舞妓さんの姿を置くことで、あやふやな時間帯の情緒のようなものを表現したかったのです。

通常いわゆる”美人画”では、このように逆光の中で顔を影にして描くことは無いのですが、敢えて影の中で描くことに挑戦しました。
光の表情を描き出す為には、影・陰影をどう描くか、が大切な要素だからです。

また、油彩のタイトル「暖簾をくぐって」は、両市の姉妹都市締結も50年目を越えて――”くぐり抜けて”、更なる次の50年、100年を一緒に歩んでゆきましょう、という節目での”幕開け”のイメージを託したつもりでした。
そしてその後・・・巡回展の記念作品としては「舞妓夕景」という、内容をストレートに表すタイトルと致しました。

一点一点それぞれの光の表現に、様々な想いを込めて描き上げた、両市の”光の情景”を集めた巡回展です。
ご覧頂き、楽しんで頂けましたら嬉しく存じます。

笹倉鉄平

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