北京最新美術事情(?)

この秋口から、全国五ヶ所の会場で開催されてきた一連の「イタリア個展記念展」も、先日の大阪会場を最後に無事に終了することが出来ました。
各地で多くの方々にご来場を頂きましたこと、とても嬉しく思っております。
また、応援のお言葉・感想なども多くお寄せ頂きまして、本当にありがとうございました。

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さて、前回で予告(?)していました通り、今回は先月訪ねた中国の首都・北京訪問話をすることにしましょう。
少し前から、様々なメディアで、劇的に色々な面で変化を遂げつつある中国の様子が伝えられていましたので、なんとなくは”解っている”つもりで訪問したのですが・・・実際に現地の空気に触れてみると、そのイメージの変貌ぶりには目を見張るものがありました(無意識のうちに、あまりにも昔の中国のイメージを、私が強く持ち過ぎていたせいかもしれませんが)。

「漢字」や「仏教」をはじめ、日本は古来より中国から文化的にも多大な影響を受けてきました。
ところが、隣国という物理的な近さにも関わらず、私個人的には、近代の中国の様子は、遠いヨーロッパの国々に対してよりも遥かに知識を持たない(社会主義国であるという事もそれに拍車をかけてはいますが)、正に俗に言う、「近くて遠い国」になってしまっているという現実もあります。
それでも、上記の如くマスコミで頻繁に取り上げられているうちに、何年か前から、世界的に様々な影響力を持ってきている”お隣の大国・中国”というものの存在が気になっていたところでした。ちょうどそんな折、今回、友人の画家・劉(リュウ)さんの案内で北京を訪ねるという良い機会を持つことが出来たのです。

劉さんの出身校、中国を代表する美術大学「中央美術学院」の前で

皆さん、中国の絵画というと、どんなものを真っ先に思い浮かべるでしょうか?
多くの方が、まず山水画や極彩色の仏教絵画、着飾った皇帝の肖像画といったものを挙げると思います・・・(そうですよね?)。
ところが今回、左の写真にある「中央美術学院」を見学することが出来、目から鱗が落ちる思いでした。
そこには、そういった伝統的絵画は勿論のこと、それ以外にも、世界レベルに進んだありとあらゆる表現によるアートを学び、生み出している教育が存在していました。
よく考えてみれば当たり前のことなのですが、北京の街で見かけた絵画の多くは、水墨画や墨蹟風のものだった為、そのギャップに驚いてしまったのかもしれません。

特に興味を引かれたのが、版画の教室を覗かせて頂いた時でした。
リトグラフ、エッチング、木版、シルクスクリーンなどを実習している様子は、自分の学生時代の授業とだぶり、また、普段よく行く日本やアメリカの工房とも重なり、不思議な気分を覚えながら、生徒達の制作した版画作品の進んだ新しい試み等々を、とても興味深く見せてもらいました。

更に、国立北京美術館を見学した時には、ちょうどフランス印象派展が大々的に開催されていました。
展示内容も大変に見ごたえがあり、連日かなり多くの人が押し寄せているという話を聞き、人々の美術に対する関心の高さも垣間見ることができました。

北京では、今から20年ほど前から、同じ嗜好を持つ画家達による新しいグループが次々に結成され、そのグループでの展覧会活動などが盛んになっていったそうです。
そういった動きも関係があってかなくてか、今、北京の郊外(中心地から車で30分ほどの場所)に、繊維関係(?)の工場やレンガ倉庫の建物を再利用したような、ギャラリーやカフェ、作家のアトリエなどが数多く集まる、ちょっと洒落た地区ができているとのことで、行ってみることにしました。
そこには、まるで少し前のニューヨークのSOHO地区の様な空気が流れ、生き生きとして斬新なアートシーンが生まれているのを、目の当たりにしました。
そして、どうやら、ここが世界に向けて若い作家達が自分の作品や存在を発信してゆく場所となりゆくだろう勢いを、その息吹の中に感じました。
こうして、世界の片隅で新しいアートの息遣いを実際に肌で感じることは、一人の画家としてとても嬉しいことでした。

さて、北京の興味深いアート・シーン(?)を駆け足で、ざっと紹介してみました(というよりも、むしろ個人的な感想になってしまいました)が、その雰囲気を多少でもお伝え出来ていればよいのですが・・・。
いずれにしても、色々な分野で中国からは、今目が離せない状況ですね。
そうです、思えば、皆さんが恐らく準備にいそしんでおられる年賀状図案としてよく使用される「干支」にしてみても、元来中国から伝来しているものですし・・・実は、中国伝来の思想から成っている意外と身近にあるものというのは、枚挙にいとまがありませんし、もう少し勉強して色々知りたくなってきました。

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それから、私の近況はといえば・・・絵の制作の為、もうすぐ日本を離れる予定です。
どうやら、今年の年末~お正月もまとまったお休みをとれそうにないような・・・・・・。
でも、絵を描くことに没頭出来るということは、とてもありがたいことなのですから、そんな年末年始も”乙な物”と思っているんですよ。本当に(笑)。

笹倉鉄平

2004

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