ユニオン・ジャック‼

ご無沙汰しておりますうちに…梅雨も明け、すっかり夏本番ですね。
関東周辺でたまたま展覧会が続いた都合で、ここ暫らくは東京で制作を続けておりました。

そんな中、マスコミでは「ロンドン・オリンピック」の話題を目にしない日は無い毎日です―――

昨春のウィリアム王子のロイヤル・ウェディング辺りから始まった、英国への熱い視線は、エリザベス女王の即位60周年行事やオリンピック開催でピークを迎え、”英国当たり年”的な様相を呈している昨今です。

そして、その度ごとに大量に目にするのが、イギリスの連合王国旗である「ユニオン・ジャック」・・・あの旗です。
以前から、ファッション・アイテムやデザイン・アイコン等としても目にすることは多かったですが、最近はとりわけ目立っているような気がします…世界的な注目度アップの影響があってのことなのでしょうか?

リヴァプールの街のマシュー・ストリートに在り、 ザ・ビートルズがデビュー前に出演していた「キャバーン・クラブ」 というライブハウスの前で。

世界の国旗の中ではかなりメジャーなものとして、日本でもお馴染みの「ユニオン・ジャック」ですが、出会い方や思い入れ等で、それぞれに異なる印象を持たれていると思います。
私の場合、「ユニオン・ジャック」を見て、初めに反射的に頭に浮かぶのは”ロック”(音楽)です。

「ザ・ビートルズ」は言うまでも無く、青春時代に好きになったロックバンドに英国出身がかなり多かったこともあり、いつかその”聖地”である英国へ行きたいという憧れの対象を象徴する、正に”旗”印となって脳裏に焼きついてしまったからだと思います。

ところが、何度か実際に英国を訪れるうちに、強く魅せられていったのは、羊が点々と散らばるなだらかで延々と続く緑の丘陵であったり、花々が咲き乱れていながらも楚々とした庭だったり、小さな街や村で出会う牧歌的な風情だったり・・・自然の懐に抱かれた豊かな風景の数々でした。

英国人、なかんずくロンドンっ子たちが憧憬と共に口にする”田舎(カントリー・サイド)”という言葉の裏には、愛情や尊敬や郷愁などの感覚が在り、日本語のいわゆる”田舎”とは、そこに込められる感情は随分違うようです。
それは、かつて豊かな時代を謳歌し乗り越えてきた経験から得た、彼らの自然に対する真摯な思慕に由来しているのかもしれません。

そんな英国で、特に有名なのが「ナショナル・トラスト運動」という活動です。
1895年に設立されたボランティア団体「ナショナル・トラスト」により、保護されるべき地域・建造物は買い上げられ(乱開発や環境破壊から守りつつ後世に残してゆく為)、維持や管理が行われるているのです。

英国内にその著名な施設やエリアは沢山ありますが、絵本「ピーター・ラビット」シリーズの舞台、イングランド北部の”湖水地方”もその中の一つです。

ニア・ソーリー村のとある屋根の上には、 ポターの絵本シリーズの中でも人気が高い “あひるのジマイマ”の風見鶏が・・・いや、風見あひる?ですね。

絵本の著者ビアトリクス・ポターは、1866年ロンドンの裕福な家庭に生まれました。自然やその中で生きる動物たちに惹かれてスケッチ等してゆくうちに、知人の子供への絵手紙が原型となった「ピーター・ラビット」シリーズの絵本が出版され、大成功を収めます。

後年は、湖水地方の牧羊場・農場を購入し経営。この地の自然の美しさを愛し、かつナショナル・トラスト運動創始者の友人でもあった彼女は、著作権料や遺産で土地を買い上げ、無理な開発から大いなる自然と景観、伝統的な佇まい等を守りました。現在、そこは湖水地方国立公園の一部で、国内外から多くの人々が訪れています。

そんな自然への素晴らしい貢献と、世界中で愛される絵本を残したポターが、晩年に暮らしたニア・ソーリーという小さな村へいつか行ってみたいと憧れを抱き、実際に訪ねて描いた作品が、発表された「ニア・ソーリー村」です。

絵本の中にも、周辺のそこここの風景が登場していますが・・・
彼女が愛し残そうとした村の長閑で美しい風景をこうして描いたのは、その遺志への私なりの尊敬の気持ちもあってのことでした。

「エコ」を声高に語りながらも、なかなか地球規模での実践が難しい現在の状況の中、100年も前に、守るべき自然環境を想い、行動を起こしていたポター女史の勇気と志と愛情に、敬意を覚えます。
あ、何だか大そうな話になってきそうですので、今回はこの辺で・・・

暑い日が続きますので、どうぞご自愛下さい。
暑中見舞いに代えまして。

笹倉鉄平

2012

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