私にとってのカダケス

この冬は、雪が降ることも多く、思いのほか寒いような気がします。
そんな中、2008年に訪れたカンボジアの学校を、先日再訪してきました。連日35度を越える暑さの中、Tシャツ一枚でも大汗をかいていました・・・が、日本へ戻ればまた雪と、体もさぞやビックリしていたことでしょう。
(カンボジアでの話は、学校の現在の様子などを写真も交えながら、またの機会にお伝えしたいと思っております。)

ということで、ここでは前回の続きを・・・。

新作「カダケス2010」、ご覧頂けましたでしょうか?
そのコメント内でも少し触れておりましたように・・・「画家20年目の機会に、カダケスのあの場所にもう一度立てば、当時の自分自身と話が(上手く言えないのですが、そんな感じのことが)出来るだろうか」という思いが、2年程前から徐々に大きく強くなってゆき、実行したのです。

自身なりのこれまでの変化をどこかで確認したかったのか、どう進んでゆこうとしているのかを見つめたかったのか、理由は自分でも明確に分りませんが・・・決して短くはない20年という時間に線引きをしてみたかったのかもしれません。

思い返せば、この小さな漁村を知ったのは、建築関係の洋書の中に見つけた一枚の小さな写真でした。
20年前、インターネットからの情報は勿論無く、ガイドブックでも詳しいものはとても少なく、苦労していました。特に、都市やメジャーな観光地以外の小さな街や村を知る為には、大きな図書館や大型書店に足を運んで探すしか術はなく・・・それでも得られる情報はごく限られたものでした。

「ここを描いてみたい」と思い定めて現地を訪れ、最寄の駅から町中まで実際に歩いてみて、あまりに予想と違っていれば、その足で駅へと戻り再び次の候補地へ・・・などということもありました。
そんな状況ですから、その頃は行く前に予定も立てられず、目的地に到着後、市役所や観光課案内で地図をもらって少し歩き回り、”描きたい”と思う場所に出会えてから、その近くにホテルを探すことにしていました。

ところが、このカダケスは、着いた途端まるで一目惚れでもするかの様に、滞在を即決したという稀有の地でもありました。
その時、何がそう思わせたのか?理由を思い返してみますと・・・

①海と家並みがとても接近した位置関係にあること(海岸沿いの道幅が狭めなので、町の灯りが水面によく映える)。
②家並みが斜面にびっしりと建っているので、遠くから眺める街並の”固まり感”の具合が良い。
③それらの建物の壁が白い為、白熱灯はピンク味・蛍光灯は青味を帯びている感じがつかみ易かったこと(壁の色が濃いと、光の当たる様子や表情が分りづらい)。

・・・等、こんなにも好条件がそろっている場所に、画家としてのスタート直後いきなり出会え、原点となる絵を描けたことは、本当に幸運だったと感謝をしています。

また、”海に映る光”を初めて描いたのが、この「カダケス」でした。
その部分を描きながら感じていた手応え?楽しさ?から、光揺らめく水面の表情が中心となるような、もしくはそれを生かした構図で、もう一枚描いてみたい・・・そんな気持ちが、どこかでずっと燻っていたのかもしれません。
そんなことも、今回の再訪につながりました。

初めて訪ねた時には思いも寄らなかったことですが、縁もゆかりも無いスペインの片田舎の小さな漁村が、私個人にとっては特別な場所になっていった気がして、何だか不思議な感じがしているのです。

笹倉鉄平

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